『 望郷  ― (1) ― 』

 

 

 

 

 

 

    カタン ―  

 

冷蔵庫を開けて ずぼっと首を突っ込む。

 

「 え〜〜と ・・・?  なにがあるんだっけか・・・・

 肉は 冷凍庫に うん、チキンも豚も あるな〜 よかった!

 野菜が ・・・ ありゃ これ なんだ? 

 ・・・ あ 萎びナス!  シワシワな ぴ〜まん か これ??

 げ・・・ この袋の中のゲル化してるのは ・・・ 捨てる!

 あ〜 なんとか無事っぽいのは ニンジンが半分 だけ???

 マズいよなあ〜〜  トマトもないのかあ

 で ・・・ あっちゃ〜〜 卵も ないしなあ   ヤバ〜〜 」

 

ジョーは 外界に復帰し 時計を見た。

「 あ まだ 特売時間に間に合う〜〜〜

 博士〜〜〜  ちょっと買い物 いってきます〜〜〜 」

声を張り上げ 返事を待たずに 彼は玄関に向かった。

「 ・・・っと〜〜 いちお〜 ダウン 羽織ってかないと〜〜

 夕方は冷え込むって皆いってるし・・・

 あ きゃっぷ きゃっぷ〜〜〜 」

玄関の隅に放り投げてあったダウン・ベスト と 靴箱の上に置きっぱなしな

キャップをかぶる。

 「 いってきます〜〜  

 

  ガチャン。   外に出て 車庫により愛用・ままチャリを持ち出す。

 

「 お〜〜し!  行くぞ〜〜 かそくそ〜〜〜ち!!!  」

 

    ヴァ −−−−−   

 

ピンクの自転車は邸の前のなが〜い坂を急降下していった・・

 

「 ?  ジョー?? なにか言ったかのぉ? 」

博士は 書斎のドアを開けたが  ― 返事がないので

そのまま 閉めた。

「 ・・・ しかしなあ ・・・ あいつがこんなに家事が好きとは

 ま〜 奥が深い というか・・・ いや ありがたいことじゃが・・・

 ニンゲン ようわからん、ということか ・・・

 いや 本当にありがたいよ うん  」

ひとり うんうん と頷きつつ ドクター・ギルモア は 

再び 現在取り組み中の 課題 に没頭するのだった。

 

   天才とは。 専門以外の分野では 役立たず ということ らしい。

 

 

 さて 自転車は軽快に < 跳んで > ゆく。

 

「 ふんふんふ〜〜〜ん♪ ジャガイモ と タマネギ〜〜〜

 特売で げっと〜〜〜 ♪  卵も買ったし・・・・

 あ ! 緑系の野菜 買ってないじゃん  

 

 キキキキ −−−−  ままちゃり は 急カーブを描き

県道から 商店街通りへと 驀進していった。

 

「 八百屋さん っと ・・・ あ きゃべつ! ぴ〜まん も!

 うっわ〜〜〜 とまと、美味そう〜〜 」

ジョーは 店先でうろうろしてしまう。

「 へい らっしゃ〜〜い  おや 岬の坊や なにがいいかね 」

八百屋のおっちゃんは気さくに声をかけてくれる。

「 あ こんにちは〜〜  えっとぉ きゃべつ と ぴ〜まん。 

 あと とまと ください ! 」

「 まいど!  キャベツは 一個丸ごとでいいのかね? 」

「 はい! ぼく 大好きなんで〜〜 」

「 ほいほいっと。  あ ・・・ あの美人さん どうしたね?

 アンタの姉さんだろ  」

「 あ・・・ 姉とはちょっとちがくて ・・・ 

 あのぉ〜〜 故郷に帰ってて 」

「 そ〜かい それで アンタがおさんどん やってんのかい 」

「 あは ぼく 結構好きなんで〜 

「 へ え〜〜 若いモンが珍しいねえ〜〜

 そうだ この大根! これも もってきな!

 ご隠居さんに よ〜〜く煮てあげなよ 」

「 あ  はい ・・・ あのぉ カレーに入れても・・? 

「 ああ ああ 美味いぞぉ!  

 あのな 余った野菜があったら なんだってぶっこめば 

 めっちゃ美味いカレーができっぞ 

「 あ なるほど〜〜〜 さっそくやってみます! 

「 おう がんばれや〜〜  ・・・ で あの美人の姉さんに

 はやく帰ってきてもらうんだな〜  

 俺らも 彼女の笑顔、拝みたいぜ まってっからさ! 」

「 あは・・・ ども〜〜 」

ジョーは ひっじょ〜〜に曖昧に笑い返事を濁し ・・・

 

    ・・・ 姉さん じゃないっての!

    あ でも日本人でよかった〜〜〜

    だいこん なす にんじん〜〜 っと♪

 

 

  きゅるるる ・・・ 

 

前カゴ も 後ろも 山ほど食料品を積み上げ

( ジュース やら 牛乳 やら お米 やらも 一緒くた★ )

すっごい姿になった まま・チャリは 発進した。

 

    う ん ・・・?  誰もいないな〜〜

 

    よっし!  ぱわ〜〜 あっぷ!!!!

    かっそくそ〜〜〜ち!

 

 

 ぎゅう〜〜〜ん !!  ピンクの自転車は坂道を驀進していった。

 

 

 

        *************

 

 

 

「 しばらく 故郷に帰りたいのですが 」

あの晩 フランソワーズはまっすぐな瞳を < 家族 > に

向けた。

「 ・・・え  あ ああ 旅行にはいい季節だよねえ 」

「 あの。 旅行じゃなくて ― あちらに戻りたい、と思って。 」

「 ・・・ え ・・? 」

「 おお おお そうか。 それはよいことじゃ・・・

 さっそくエア・チケットを予約するとよいよ 

言葉が続かないジョーの横で 博士はにこやかに応対してくれた。

「 博士 ・・・ ご不便をおかけしてしまいますが 」

「 なにを言うか。 フランソワーズ、 お前はお前の望みを

 追いなさい。  ワシのことなど 気にする必要はないよ 」

「 ・・ でも ・・・ 」

「 大丈夫じゃよ。  近くには張大人もおるし グレートも

 今しばらくこちらで活動する、と言っている。 」

「 え ええ ・・・ でも ・・・ 」

「 そんな顔はおよし、フランソワーズ。

 それに 唯一の地元民 が 一つ屋根の下に暮らしておる。

 なあ ジョー? 」

「 ・・・ は へ??? 」

いきなり話を振られ ジョーはきょときょとしている。

「 おいおい・・・  しっかりしておくれ。

 お前さんがいてくれれば ここでの生活は安泰だ、といっておるのさ 」

「 は??  あ  え 〜と ・・・? 」

「 ジョー ・・・ ちゃんとお食事の用意 できる? 」

「 ・・・ あ  え〜〜と  あの・・・ 

「 ・・・ やはり 帰るのはやめようかしら 」

碧い瞳が 曇ってしまった。

 

    ずきん ・・・ !  

 

ジョーの胸が ― めちゃくちゃに衝撃を受けた。

 

    そんな ― 泣かないでくれよ〜

 

「 ふ フラン!  安心してくれたまえ。 

 この家の家事はぼくがしっかり引き受ける! 

 きみは 安心してきみのシアワセを 追及してくれ。 」

「 え ・・・ 本当に大丈夫・・? 」

「 うん。  博士、この家の食生活はぼくが保証します。 」

 

   うんうん。  ジョーは二人の前で力強く頷いてみせた。

 

    ・・・ チン! があるもんな〜〜

    冷凍食品、最近たくさんいいのがでてるし。

 

    でりばり〜 も 即行で来てくれるみたいだし

 

     うん。 なんとか    なる よね??

 

ジョーは 自分自身に対しても一生懸命頷いていたのだ。

 

 

「 おお ジョー〜〜〜  頼りにしておるよ。

 なに ワシだとて若い学生の頃には自炊もしておったのじゃし 」

「「  え〜〜〜〜〜〜〜〜   」」

ワカモノ二人は 思わず声を上げてしまった。

「 ・・・ なんだ なんだ  そんなに意外かね 」

「 え あ  い いえ ・・・ 

 学生時代から ずっと勉強や研究に打ち込んでいらしたのかと・・・

 ね ね?? ジョー 」

「 あ う  うん ・・・ 

 そのう ・・・ 研究室でらーめん 煮てたり とか〜 」

 

   ジョー !   つんつん。 

 

フランソワーズは こっそり彼の脇腹を突いた。

「 ・・・て ・・・ あ  いえ そのう〜〜〜

 はい あ〜〜 博士のロシアン・ティ、 美味しいです! 

「 お そうか??  では こんどまたストロベリー・ジャムで

 ばっちり淹れような。 

「 あ  は ・・・  うれしい な ・・・

 ( ・・・ あれ 激甘 なんだよなあ ・・・ ) 」

 

「 そんなワケだから。

 フランソワーズや、 心おきなく帰郷しておくれ。 」

「 はい ・・ ありがとうございます ・・・ 」

碧い瞳から ほろり ほろほろ・・・ 玻璃の雫が

 これは 温かい雫が 落ちていった。

 

 

  そんなワケで。 郊外の崖の上に建つ洋館では

現在 ご当主のご老人と 茶髪の若者が 静かに暮らしているのである。

 

 

「 そら 大変でっしゃろなあ ・・・

 いつでん、ごはん 召し上がりにいらしてや〜〜〜

 ギルモア先生のお好きなぺきん・だっぐ、美味しとこ、とっときまっせ〜

 ジョーはん お気に入りの豚まん もなあ 

ヨコハマで飯店を構える仲間は にこにこ顔で応じてくれた。

それは それでチカラ強い応援だった けど

 

    でも ・・・ 毎日、行けるわけないよ。

    大人とこだって商売なんだし さ。

 

    そりゃ 嬉しいけど。

 

    やっぱウチはウチで やんないと な〜

 

ジョーは 年齢の割にはかなり 気にしぃ なのだ。

 

 

「 お〜〜 my boy、 腹を括ったなあ〜

 おい? お前さん マドモアゼルを怒らせたのか?? 

「 へ?? なんで?? 」

「 彼女 ・・ 出ていっちまったんだろ? 

「 ち 違うよ〜〜  故郷に帰ってるだけ。 

「 だ〜から 出ていったんだろうが。  このウチから。

 なにが原因なんだ お前さんの浮気か 」

「 う 浮気って そんなんじゃなくて〜〜  」

「 じゃあ なんだ? まさか 新手の恋人とか?? 」

「 ち 違うってば〜〜〜  」

「 ふむ?  ・・・ 近々 とっくり話そうじゃないか。

 お前さんなあ〜 しっかり捕まえておかんと ダメだぞ 」

「 つ 捕まえてって 〜〜  」

「 あんな美人、お前さんにゃ過ぎた女性なんだぞ?

 早々にモノにせよ。  盗られるぞ! 」

「 あのね〜〜〜  グレートぉ〜〜〜  ちゃんと聞いてくれよぉ 」

「 聞いとるよ。  まあ オトコらしく!

 すっぱりと謝って 帰ってきてもらうんだな。 

 率直さと正直さ、 それが オトコの武器さ。 

 まあ 頑張りたまえよ  my boy 〜〜 」

「 もう〜〜 グレートってば ・・・ 

 ああ 喋りたいだけ喋って 行っちゃったよぉ・・ 」

ジョーは 盛大にため息をつき ティー・セットを片づけ始めた。

 ふと。 手が止まる。

 

    ・・・ で も。

    フラン ・・・  

    ・・・ ココがイヤになったの かな・・・

 

    ぼく達と ・・・ いや ぼくと

    ひとつ屋根の下に暮らすのが

    

      嫌になっちゃったのかなあ

 

 

カチャ ・・・ カチン。

「 おっと・・・ このセット、フランのお気に入りなんだっけ。

 大事にしなくちゃ!  きっちり洗って・・・

 そ そうさ! 帰ってきた時 すぐに使えるように ! 」

 

    で  も。

 

    ・・・ 帰ってきてくれる  かな ・・・

 

 

「 いや! 帰ってくる さ。

 だって < しばらく帰る > って言ってたじゃん?

 ジョー、 お前だってちゃんと聞いてただろ。

 そりゃ 誰だって時には故郷に帰りたくなるさ。 」

彼は懸命に自分自身に 説明 という言い訳をしている。

「 ほら アルベルトだって ジェットだって!

 故郷に帰ってるじゃん?

 フランだって 同じだよ うん。 絶対。

 特に彼女はず〜〜っと 日本にいたんだし?

 たまには 帰りたくなるさ。 

 たまには 故郷の味、懐かしくなるさ。

 うん  そうだよ! そうに決まってる。 」

そして 自分で出した結論に 満足し 安心した。

「 さ〜て っと。 晩御飯、どうすっかな〜〜〜

 あ そうだ そうだ、この前 張大人からもらったシュウマイ!

 あれ 冷凍してあるから 〜〜 チン でいっか〜〜

 炊飯器はセット済みだし ・・・ あ あとインスタント味噌汁だろ〜

 う〜ん と ・・・ サラダ とかいるかなあ〜 

 野菜 ・・・ しばらく買ってないなあ・・・

 あ 裏庭の温室になにかあるはずだよん。 」

 

彼は足取りも軽く キッチンから裏庭に出ていった。

 

  ギシギシ ・・・ ガチャ・・・

 

「 お〜 やっと開いたぜ〜〜 しばらく来てなかったからなあ 〜

  ・・・ おわ??? 

温室のドアを半ばこじ開け ― 彼は立ち尽くしてしまった。

ジェロニモが設置し フランソワーズも丹精し

この家に 美味しいサラダやらデザートを提供してくれていた 温室 は。

 

      うっわ 〜〜〜〜〜・・・・ !

 

ドアの前で ジョーはごたまぜにもしゃもしゃに生い茂る緑たちに

圧倒されてしまった。

 そう・・・ 放置に等しかった温室は ミニジャングルに変わり果てていた。

 

「 ・・・ あっちゃ〜〜〜  ひっで〜な  これ・・ 」

 

水分と養分はオートで供給されるが 間引きやら植え代えなどの

手入れは全くされていない。

もう 植物たちは我が物顔で好き勝手に ・・・ 伸び放題 なのだ。

弱者は 当然、枯れて消えてしまっていた。

 

「 ・・・ まっじ〜〜よ ・・・ なんとかしなくちゃな〜〜

 あ でも トマト み〜〜っけ!  お〜〜 キュウリがへちまみたく

 でかくなってる〜〜  今晩は コレ、使えるな〜〜 」

 

手近な野菜をちゃちゃっと収穫した。

 

「 ん〜〜 今度の週末! 手入れできる ・・・ かな 多分。

 とりあえず 今晩のサラダはおっけ〜 かな 」

 

  ギシギシ  カタン。

 

彼は ドアをなんとか閉じ、目の前の惨状?から逃亡してしまった・・・

そうなのだ・・・

ジョーは かなりお気楽に そして 楽しく暮らしていたのだった。

 

 

 

 

    ふんふん ふ〜〜〜ん ♪

 

その朝も ジョーはハナウタ混じりにキッチンに入ってきた。

「 さあ〜〜て ・・・と。  朝ご飯は 〜〜〜 

 あ パン、 買ってね〜な〜  じゃ 御飯 ・・・

 いけね〜〜 炊飯器 セットしておくの、忘れた〜〜

 やっば〜〜  この時間じゃ コンビニしか開いてね〜な〜

 ちょいと行ってくるか 

 う〜ん  おにぎり とかあるといいなあ 

ジョーはそのまま 玄関に出た。 

「 あ・・っとぉ  一応 パーカー 引っ掛けてくかあ 」

彼は一旦、リビングに戻った。

最近 パーカーだのキャップだの ・・・ 日常よく使うモノは

リビングに放り込んでいる。

 

   便利だしね〜〜

   ・・・ フランがいるとさあ

   ちゃんと片して! って怒られるけど ね〜〜

 

「 え〜と パーカー どこ 置いたっけか〜〜  」

ソファが置いてある方に回り 窓側を見て ―

 

     え ! ???

 

窓に向いたソファで 博士がぐったりとしていたのだ ・・・

「 は 博士〜〜〜〜 !!! どうしたんです???

 まだ お休みだと思ってたんですけど 」

ジョーは慌てて駆け寄った。

「 ・・・ う  あ  ジョー かい・・・

 いや  なんでも ・・・ 」

博士は 変わりない調子を保とうとしたが 声に力がない。

「 なんでも じゃないですよ  気分 悪いんですか 

 あ 今 水 もってきます〜 

「 ・・・ す すまん なあ 」

ジョーはキッチンに駆けていって 冷たい水をもってきた。

「 はい!  ほら 少しづつ・・・  

「 あ ああ ありがとう よ・・・ ああ うまい な 」

「 ・・・ もう一杯 飲みますか?

 あ え〜と 経口保水なんとか・・・の方がいいのかな 」

「 ・・・ いや ・・・ 」

「 部屋にもどりますか? ベッドまで運びますよ 」

「 ・・・ ああ  ここで 少し休むよ 」

「 もしかして 昨夜から  ここに?? 」

「 あ? いや  今朝なあ 早朝散歩に出ようとしたら ・・・

 なにか 脚が  うごかなくて  」

「 え!?  ちょっと休んで ・・・ 病院 行きましょう!

 ほら 海岸通りのヤマダ診療所なら いいでしょう? 」

「 いやいや もう少し休んでおれば大丈夫 ・・・ 」

「 ダメですよ〜〜〜  あ なにか食べられます? 」

「 ああ・・・ そうさな・・・ オレンジ あるかい 」

「 いま みてきます! 」

 

   ドタバタ ・・・  バタン ・・・!

 

キッチンに飛んでゆき 冷蔵庫を開け 野菜室を覗き ―  

 

    ・・・ あちゃあ〜〜〜〜 ・・・

    からっぽ じゃんか ・・・

 

「 ・・・ なにか 代わるもの ・・・?

 あ アイスがある〜〜〜 」

彼は いつから入っているか不明なカップ・アイスを取りだした。

「 これなら  少しは栄養になる  か な・・・? 

 

 

 

「 ですから ね。 きちんとお食事をしなければいけません。 」

「 ・・・ は はい 」

ジョーの前には かっきり白衣で武装した?看護士さんが立っている。

 

朝いちばんで ジョーは博士を地元の診療所へ連れていった。

大丈夫、という博士を 珍しくも彼は半ば強引に車におしこみ 

道を急いだ。

地元の、そして博士とはかなり懇意になっているヤマダ院長は

朝イチで 診療してくれた。

顔見知りのスタッフさんたちも 笑顔で対応してくれる。

 

     ああ  ・・・ ここで よかった・・・

 

ジョーは 心底ほっとしていた。

 

 ― そして。

 

博士は今 簡単な点滴と安静を処方され しばらく休んでいる。

ジョーは おっかなそうな看護士さんに 教育的指導 を受けているのだ。

 

「 ご年配の方には 特に食生活の充実が必要です。

 あなたのお父様ですか? 」

「 あ ・・・ は はい!  すいません! 」

「 謝るのは お父様に謝って。 

 カップ麺 やら コンビニ弁当 ばかりではダメですよ 」

「 は はい! すいません 」

「 それはね、アナタも同じことです。

 若い方だって 食生活に気を配らないと ・・・

 将来の生活習慣病のモトになります。 」

「 は い ・・・ すいません ・・・ 」

「 今はね〜 カップ麺で元気でしょうけれど  ね。

 いいですか? ちゃんと買い物にゆき 食材を買ってきて。 

 簡単な料理なら 家庭科で習ったでしょう? 」

「 は ・・・ あ ・・・   あ! ゆで卵 つくりました! 」

「 そう ・・・  ま 今はいろいろ手段はありますから。

 スマホでちょちょ・・っと検索してごらんなさい。 」

「 はい ・・・ 」

「 貴方がお父様の健康を守るのですよ。 

「 は はい! 

「 ほら この先の海岸通り商店街、どのお店の方も親切よ?

 いろいろ調理法 聞いてごらんなさいね 

「 はい わかりました。 」

「 あ 飲み物もね、 コーラやジュースじゃだめですよ 

「 あ はい ・・・ お茶に牛乳、 買ってます。 」

「 いいですね。 あと お水ね。 ご年配の方には

 気を配ってお勧めしてね 

「 はい 

 

     ふ  う ・・・

     なんか ・・・ でっかい荷物 背負わされた気分・・・

 

     ・・・!  フランって 

     いっつも笑顔で 食事とか作ってくれてたよ ・・・

 

     すっげ〜〜〜なあ  ・・・

 

 

「 博士〜〜  じゃ 出発しますよ 」

「 ああ 頼むよ 」

帰路 ジョーは 最大限の徐行運転を行った。

 

「 ?? ジョー ・・・ クルマ、どこか不具合があるのかい 」

博士は後部座席でリラックスしていたが すぐに気がついた。

「 え いえ 別に ・・・ どうしてですか 」

「 えらくゆっくりじゃないか 」

「 あ〜〜 制限速度を遵守しよっかな〜〜って ・・・ 」

「 ここは私道じゃから 別によいのではないかい 」

「 あは 交通安全〜〜って  博士 ご気分は? 」

「 上々じゃよ。  ・・・ 迷惑を掛けたなあ 」

「 とんでもない!!  誰だって体調、悪いこと あります。

 でもね〜〜 ヤマダ医院があれば安心ですよね 」

「 そうじゃなあ  」

「 あ 博士〜〜 今晩 なにが食べたいですか? 」

「 ああ?  なんでもよいよ 

「 う〜ん  なにかさっぱりしたもの・・・ あ 刺身とか? 」

「 お前に任せるよ ジョー 」

「 はあい  ( あとで 商店街の魚屋さんに相談しよ ) 」

 

ずっと冷凍食品 と チン ですませていた。

そのうち 買い物に行くの忘れて・・・ 炊飯器は使えたし

缶詰の買い置きがあったので オカズはなんとかなった と思ってた。

 

    でも。

 

    ・・・ やっぱ このままじゃ  だめだよ!

    うん。 めざせ しっかり食生活  だあ

 

 

        プァン ・・・

 

全く必要ないのだが ジョーのクルマはクラクションを鳴らし

 ― ジョーは自分自身への気合いのつもりだった ― 

坂道をゆるゆる〜 登っていった。

 

 

 ― そんなわけで。

その日から ジョーはおさんどんに精を出している。

うっちゃっていた温室の世話も 改めて水遣りやら肥料の世話を始めた。

 

「 うっひゃ・・・ なんか草ぼうぼう〜じゃんか・・・

 あ でも ぷち・とまと 健在だあ〜〜 メロンは 消えたか。

 草とり 草とり! しなくちゃ!   

 え こっちは・・・ あ〜〜〜 イチゴだったんだあ〜〜

 うん 復活させるぞ〜〜 

 

きっちり設計してあるので ちょっと手を入れれば

温室は貴重な 野菜庫 として復活し始めた。

 

「 ふっふ〜〜 サラダには最適だよん〜〜〜 

 あ フルーツ、イチゴ以外も植えてみよっかな〜〜 

 へへ・・・ ここのイチゴなら 博士もお気に入りだよね 」

泥と水でぐちゃぐちゃになりつつも 植物たちは

ちゃんと世話をすれば ちゃんと < 応えて > くれる。

「 へへへ ・・・ なんか いいよな〜〜

 あ・・・っと 今日は いろいろ煮込み にするんだったな〜 」

 

    よいしょ・・っと。  

 

籠に本日の収穫を盛り温室を出た。

「 うっひゃ ・・・ 外、 結構冷えるんだ〜 

 えっと買い物に行く前に 冷蔵庫、点検だな〜〜 」

 

ジョーは 今や この邸のハウス・キーパー そして 

調理担当者としても やる気満々、張り切っている。

 

    ふふん。 博士の健康はぼくの担当だ!

    ぼくが この家を護るんだあ〜〜

 

 

「 さて ・・・と。  あれ?  手紙?  」

玄関の靴箱の上に 何通かのダイレクトメールやら広告が乗っていた。

「 博士、 ポストから取ってきてくれたのかあ ・・・ 

 あ?  これ・・・ ぼく宛じゃん? 

ジョーは 一通の薄い青色の封筒を手に取った。

「 島村ジョー様。  JAPON  par avion  ・・・ なんだ?? 」

封筒の縁は赤と紺のだんだら模様で囲まれている。

「 へえ 変わった模様だね ・・・ 誰からだ??

 

     !!!  わあああ〜〜〜  フランからじゃん♪♪

 

 

  ―  そう 平成っ子の彼は 航空便 を見たことがなかったのだ・・・

 

 

Last updated :  07,07,2020.                 index     /    next

 

 

**********  途中ですが

え〜〜 前半は ジョーくん独演会?? かな〜〜

いや 平成っ子だって エア・メイル 知ってる よね??

フランちゃん 後半で登場 ・・・・ する予定 (+_+)